音楽の楽しさに満ちていた、自由な怪人ジャズピアニスト、山本剛のライブ
横濱ジャズプロムナードに行ってきた。
何組かのアーティストの演奏を楽しんだので、最初はそれらをダイジェストで書こうと思っていたのだけれど、最後の山本剛トリオがとにかく最高だったので、それだけを書くことにした。
山本剛というピアニストは、スリー・ブラインド・マイスという当時の日本のジャズ専門レーベルで1970年代にデビューした。私がこの人の演奏を始めて見たのは、同レーベル主催のコンサートだった。新宿の厚生年金小ホールだったと思う。すごく熱い演奏で、山本剛はノリに乗って弾いていたのを憶えている。
あれから、40年。私も歳を取ったけれど、山本剛はどうだろう? あのスインギーなブルース、泣けるバラードは健在だろうか? そう思って開演を待つ。
アフリカの民族衣装をまとい、腰まで届く白髪の長髪を後ろで結わえて、彼は現れた。知らない人が見たら、ただの奇怪なオッサンである。
その彼がピアノに座ると、いきなり始まったのが、陽気なブルース。のっけから飛ばす。
「これだよ!これ」と思わず頬がニンマリしてしまうのが自分で分かる。自然に体が揺れる。
一転、2曲目は繊細な高音を静かに奏ではじめたと思ったら、曲は、あの、Misty。
泣けた。胸が熱くなった。
私は思い出した。この曲に、彼のこの演奏に憧れて、ピアノをやりたくなったのだった。
「えーと、次は何やろうかな?」としばし考える彼。
やり慣れた仲間とのピアノトリオであるとは言え、始めるまで何も決めていないというのもすごいけど、そこもジャズ。
その後の曲は、曲名を知っているのだけだが、
Caravan
I Left My Heart In San Francisco
What A Wonderful World
月の砂漠
など。
この選曲を見ただけでも、彼の自由ぶりが分かるだろう。
そう、今回の彼の演奏には、とにかく「自由」を感じた。ジャズの方法論も極めてきたはずなのに、それに縛られていない、とにかく乗る、楽しむ、それなのだ。
ミュージシャンも、歳を取ると、演奏は円熟してくるけれど、エネルギーが無くなってつまらなくなる人がいる。でも今日の山本剛は全くそうなっていなくて、それは、衰えていないということよりも、より自由な方向に変化して、突き抜けてきたと感じた。
聴いていて、ほんとに嬉しかったし、楽しかった。周りの観客の顔は分からなかったけれど、皆、私と同じように、笑顔だったに違いない。
最後の大盛り上がりブルースが観客の手拍子とともに終わって、最後の挨拶が終わっても鳴り止まない拍手。当然アンコールだ。
ピアノに座り直した彼は、なんと歌い出した。
懐メロ「ダイナ」の替え歌、「旦那」だ。(笑)
「旦那、飲ませてちょうだいな、蹴っ飛ばしてちょうだいな、心は晴れる」
これがまた良い味。自由な怪人山本剛。最高だった。
興味を持たれた方のために、彼のディスコグラフィーをご紹介。
まず、初期の記念すべきアルバムがこれ。1974年録音。つい最近、スリー・ブラインド・マイスレーベルの多くの名盤がCDで復刻された。嬉しい限りである。
- アーティスト: 山本剛トリオ YAMAMOTO TSUYOSHI TRIO
- 出版社/メーカー: THINK! RECORDS
- 発売日: 2013/10/09
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これは私が昔一番聴いたアルバム。これも当時のジャズ専門レーベル、イーストウィンドによるもので、このレーベルは海外の一流ミュージシャンとのコラボという企画ものが多かったのだけれど、山本剛のこのアルバムはその中でも最高傑作だと思う。「When I Fall In Love」が彼の泣けるバラードの真骨頂。
これは私は聴いていないけれど、最新のアルバム。今回のトリオと同じメンバーだし、曲目を見ると、今回のライブではこの中から選んだものが多いようだ。
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