「がんばってはいけません。がんばることは悪いことです。」


この本を読んだ。

その中で一番心に残っていた言葉が、表題の言葉だ。

ひろさちや氏の本を読むのは2冊めで、1冊めは、表題が「がんばらない、がんばらない」だったのだが、その本の中にもあからさまに「悪いことです」とまでは書かれていなかったと思う。いささか、衝撃的であった。

著者が阪神大震災の被災者の話を聞いた時の話だ。

被災した人たちは、「がんばろう」ということばを聞くたびに、いやな気持ちになる・・・と言っておられました。
「どうして、わたしたちががんばらないといけないのですか?!」と怒っておられる人もいました。

何気なく言ってしまいがちな「がんばれ」という言葉だが、それにはおおまかに二通りあるような気がする。

一つは、明らかにがんばる状況、例えばスポーツの応援や、あと僅かで目標を達成しようとしている時のような場合だ。この時は、本人も心から「がんばりたい」と思っている時で、そういうときには「がんばれ!」と言ってあげることが、それを後押しする、応援して力づける力になるだろう。

ただ、もう一つは、本人が打ちひしがれている時、失意の底にいるとき、本人のこれからの人生のためには確かに客観的にはがんばって立ち直らないといけないのだが、だからと言ってその時に、客観的な、しごく真っ当な言葉をかけてしまうことが良いのだろうか。ということだ。

正しいことは、時に人を傷つけるから。

この二通りで後者は、いわば相手の気持ちを思いやるという点であるが、前者は決して悪いことじゃないんじゃないのか? と私には思える。

しかし著者は、「がんばることは悪いこと」と言い切る。

これはやはり、なかなかすんなりとは肝に落ちることではない。

それはそうだ。小さい頃から、常に「がんばれ」と言われて育ち、会社でもがんばって目標を達成せよと言われている。

日本人はがんばって働いてきて、戦後から復興してここまで来た。

それが悪いことだったなんて・・・つまり、価値観が根底から覆るからそれを認めるのが怖いのだな。

心の底では、分かりかかっているのかも知れない。

ひろさちや氏の仏教本は、とても読みやすい。でも書いてある内容はとても深い。

何度か読み返したい本の一つになった気がする。


がんばらない、がんばらない (PHP文庫)

がんばらない、がんばらない (PHP文庫)