ズレているからこそ良い音楽

なぜ合奏は「合う」のだろう? [1/2] - ON-KEN SCOPE[音研スコープ] 音楽×研究

を読んで。

「合奏」というのは、複数の人間で音を出して、全体として音楽として聞けるものをリアルタイムで作り出すということだ。

そのためには、各自がバラバラに演奏していては、音楽にならないというのは当然であって、各自のリズム、テンポ、音程が一致してこそ、ひとつの音楽になる。

では、完璧に一致しているほど、優れた音楽になるかというと、全然そうではないところが、音楽の面白いところであり、「してやったり」という部分でもあるのだ。

つまり、「合っていないからこそ良い。」ということもあるのだ。

まずひとつの例は、いわゆるストリングスというもの。バイオリンが何人かで同じユニゾンのメロディを演奏すると、非常に広がりのある、包み込まれるような広がりのある音が生じる。

でも実はこれは、奏者一人一人の音程が微妙に違うからこそ、音の広がりや柔らかさが出るのだ。

だからストリングスの音色をシンセサイザーで作り出すには、わざとちょっとピッチを変えた複数の音源を組み合わせて作っていた。

ロックバンドでの「キメ」というやつもそうだ。

ベース、ドラム、ギター、キーボードという楽器が、「キメ」の場面で見事に「バッチシ合う」ことが、実にカッコいい、アクセントを生じさせるのだが、実は、4人が全く同じタイミングで腕を動かしていたら、バッチシは合わない。

何故なら、それぞれの楽器でアタックの長さが違うからだ。ドラムは叩いた瞬間から音が立ち上がるが、ベースは言ってみれば「ぼわーん」と音が立ち上がる。だから、「バッチシ合う」ためには、ベースはドラムよりほんのちょっと先に弾き始めないといけない。

上手い演奏者は、楽器毎のその特性を良く分かっていて、どのタイミングで音を出せば「バッチシ合う」のかを身体で覚えているのだ。

ジャズピアノトリオでは、さらに、ピアノがわざともたらせたり、遅らせたりした感じの演奏をする。「レイドバック奏法」というやつだ。

ここまで来るともう、聴いている側にも明らかに遅れていることが分かるのだけれど、それがジャズ独特のいいようもない洒落た雰囲気を醸し出す。

ズレていると言われる、一歩手前で抑えている絶妙なノリ。それが心地よい緊張感を生む。そして、そんな演奏ができるって、なんとまあ大人の世界。そういう感じを味わう音楽なのである。