音楽の楽しさに満ちていた、自由な怪人ジャズピアニスト、山本剛のライブ

f:id:gcg00172:20131014081616j:plain

横濱ジャズプロムナードに行ってきた。

何組かのアーティストの演奏を楽しんだので、最初はそれらをダイジェストで書こうと思っていたのだけれど、最後の山本剛トリオがとにかく最高だったので、それだけを書くことにした。

山本剛というピアニストは、スリー・ブラインド・マイスという当時の日本のジャズ専門レーベルで1970年代にデビューした。私がこの人の演奏を始めて見たのは、同レーベル主催のコンサートだった。新宿の厚生年金小ホールだったと思う。すごく熱い演奏で、山本剛はノリに乗って弾いていたのを憶えている。

あれから、40年。私も歳を取ったけれど、山本剛はどうだろう? あのスインギーなブルース、泣けるバラードは健在だろうか? そう思って開演を待つ。

アフリカの民族衣装をまとい、腰まで届く白髪の長髪を後ろで結わえて、彼は現れた。知らない人が見たら、ただの奇怪なオッサンである。

その彼がピアノに座ると、いきなり始まったのが、陽気なブルース。のっけから飛ばす。

「これだよ!これ」と思わず頬がニンマリしてしまうのが自分で分かる。自然に体が揺れる。

一転、2曲目は繊細な高音を静かに奏ではじめたと思ったら、曲は、あの、Misty。

泣けた。胸が熱くなった。

私は思い出した。この曲に、彼のこの演奏に憧れて、ピアノをやりたくなったのだった。

「えーと、次は何やろうかな?」としばし考える彼。

やり慣れた仲間とのピアノトリオであるとは言え、始めるまで何も決めていないというのもすごいけど、そこもジャズ。

その後の曲は、曲名を知っているのだけだが、

Caravan

I Left My Heart In San Francisco

What A Wonderful World

月の砂漠

など。

この選曲を見ただけでも、彼の自由ぶりが分かるだろう。

そう、今回の彼の演奏には、とにかく「自由」を感じた。ジャズの方法論も極めてきたはずなのに、それに縛られていない、とにかく乗る、楽しむ、それなのだ。

ミュージシャンも、歳を取ると、演奏は円熟してくるけれど、エネルギーが無くなってつまらなくなる人がいる。でも今日の山本剛は全くそうなっていなくて、それは、衰えていないということよりも、より自由な方向に変化して、突き抜けてきたと感じた。

聴いていて、ほんとに嬉しかったし、楽しかった。周りの観客の顔は分からなかったけれど、皆、私と同じように、笑顔だったに違いない。

最後の大盛り上がりブルースが観客の手拍子とともに終わって、最後の挨拶が終わっても鳴り止まない拍手。当然アンコールだ。

ピアノに座り直した彼は、なんと歌い出した。

懐メロ「ダイナ」の替え歌、「旦那」だ。(笑)

「旦那、飲ませてちょうだいな、蹴っ飛ばしてちょうだいな、心は晴れる」

これがまた良い味。自由な怪人山本剛。最高だった。


f:id:gcg00172:20131014091914j:plain


興味を持たれた方のために、彼のディスコグラフィーをご紹介。

まず、初期の記念すべきアルバムがこれ。1974年録音。つい最近、スリー・ブラインド・マイスレーベルの多くの名盤がCDで復刻された。嬉しい限りである。

ミスティ MISTY

ミスティ MISTY

これは私が昔一番聴いたアルバム。これも当時のジャズ専門レーベル、イーストウィンドによるもので、このレーベルは海外の一流ミュージシャンとのコラボという企画ものが多かったのだけれど、山本剛のこのアルバムはその中でも最高傑作だと思う。「When I Fall In Love」が彼の泣けるバラードの真骨頂。

ライフ

ライフ

  • 山本 剛
  • Jazz
  • ¥1500

これは私は聴いていないけれど、最新のアルバム。今回のトリオと同じメンバーだし、曲目を見ると、今回のライブではこの中から選んだものが多いようだ。

この素晴らしき世界

この素晴らしき世界