「歩いても歩いても」 ~ 是枝監督が描いた三世代家族の表と裏
「そして父になる」でカンヌ映画祭特別賞を受賞したばかり、話題の是枝裕和監督の作品である。
最初、この映画のタイトルを見た時、家族皆で長い距離を歩く話なのかな? と思った。
でもこれは、全然そういう映画ではない。
長男の命日に、次男と長女、その家族が実家に集まった。
この映画は、ある夏のその1日の様子を淡々と描いているだけの内容だ。
しかし、そこはドキュメンタリータッチが得意な是枝裕和監督の真骨頂。
演技とは思えない、何気ない自然な台詞のやりとりの長回し。まるで本当の家族の日常を覗いているようだ。
親子3世代が集まり、賑やかに過ごす1日は、一見とても幸せな1日だ。
しかし、皆が揃っている時には、お互いににこやかに会話を交わしているのだが、二人だけになったりしたときに、ふと本音が口をつく。
少しずつ、実は家族それぞれの間に根強く残っていた不満やわだかまりが明らかになっていく。
家族の間で本当の心を隠していることは、決して不幸なことではない。単なる本音と建前では断じることが出来ない。それが家族の関係というものなのかも知れない。
見ている我々は、徐々にそれぞれの登場人物の過去や事情を知っていくうちに、それぞれの登場人物に感情移入し、愛おしくさえ思えてくる。
中でも樹木希林の演技は白眉だ。
どこにでもいそうなお喋りと世話好きなばあさんの心の中に潜んでいた、恐ろしい「恨み」を知った瞬間。我々はまさに背中に冷水を浴びせられたような戦慄を感じると同時に、このばあさんの人間を深く一瞬にして我々に理解させるのだ。これは凄かった。
ところで、この映画のタイトルのわけは、映画の中でスッパリと明らかになる。このあたりも是枝裕和監督のセンスだ。
この映画もまた、是枝裕和監督の代表作と言って良いと思った。
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